小沢健二「犬は吠えるがキャラバンは進む」

犬は吠えるがキャラバンは進む」は1993年に出た小沢健二の1st ソロ・アルバム。日本のポップ・ミュージックの参照点の一つであるとともに、小沢健二のキャリアの中では現象として語られることが最も少ない作品だといえる。

フリッパーズ・ギターは、時代の文化(洋楽・ファッション・ダサい邦楽へのカウンター)の中でぼんやりした価値観にくっきりと線を引いた。「愛し愛されて生きるのさ」以降の作品では、消費社会の景色の中で本質を問う強さを提示していた。「犬は吠えるがキャラバンは進む」は時代を問わず、カウンターとして機能せず、ただ凡庸なまでに音楽だけをたたえている。

そしてこのアルバムで描かれるものは、抽象的な感覚ではなく、また日々の身辺に起こる具体的な感覚でもなく、その間にあるもの。神を意識することができるし、下を見れば日々が周っていることもよく知っている。しかしその視線はどちらにも寄ることがない。

時代性とも場所とも切り離された単なる音楽であるがゆえに、普遍的であり、「今の気分」と関わりなく聴くことができる。